1.東方政策の概要

「ルックイースト・ポリシー」の名で知られる「東方政策(マレーシア語では"Dasar Pandang ke Timur")」とは、1981年にマハティール前首相が提唱した構想で、日本及び韓国の成功と発展の秘訣が国民の労働倫理、学習・勤労意欲、道徳、経営 能力等にあるとして、両国からそうした要素を学び、マレーシアの経済社会の発展と産業基盤の確立に寄与させようとする政策です。

2003年に就任したアブドゥラ首相は、マハティール政権下、東方政策導入時期に担当大臣(首相府相)であったほか、長年にわたり外務 大臣としても東方政策に関与してきており、首相就任後も東方政策を重視しています。

東方政策を支える大きな一つの柱は、マレーシアから日本などに留学生及び職業人を派遣する事業です。東方政策はマレーシア政府(主務官庁は人事院:Public Service Department) の政策ですが、日本政府は本政策の導入以降、一貫してマレーシア政府に協力を行ってきました。

例えば、留学生派遣事業では、日本の大学や高専の授業についていけるように、日本への留学を予定している学生たちはマレーシアで予備教育を受け、日本語を 学び、日本語による数学や化学、物理などの授業を受けますが、それらの講師は文部科学省や国際交流基金によって派遣されています。職業人派遣事業において は、独立行政法人や地方自治体などにおける研修機関の協力を得ながら、研修を行っています。

マレーシアは1997年にアジア経済危機に見舞われ、留学生派遣事業の予算充当が困難となりました。このため、1998年度については日本政府の無償資金 供与により、1999年度以降は円借款により支援され継続されました。その後、マレーシア経済の回復を受け、円借款は2004年度で終了し、2005年度 以降は1997年までと同様マレーシア政府によって予算措置されています。

このように東方政策は、基本的にはマレーシアの政策ではありますが、マレーシアと日本とが四半世紀にもわたる時間をかけて、共に創りあ げてきたプロジェクトとも言えます。

日本はこれまでに約12,000人の留学生・研修生を受け入れてきました。これらの留学・研修経験者は、在マレーシア日系企業等で活躍 しているのはもちろん、日本関連イベントやセミナーを主催するなど、マレーシア経済の発展に貢献しているだけでなく、両国の相互理解、友好促進にも大きな 役割を果たしています。主な元留学生同窓会に、東方政策元留学生同窓会(ALEPS)があります。

2.プログラムについて

東方政策は大別すると、2つのプログラムに分けられます。

(1)学生を対象とした「大学及び工業高等専門学校への留学生の派遣」(留学プログラム)
(2)職業人を対象とした「産業技術研究及び経営幹部実務研修生の派遣」(研修プログラム)

(1)留学プログラム

(a)学部プログラム
1982年度開始。人事院が選抜した学生に対し、マラヤ大学予備教育部日本留学特別コース(注)または帝京マレーシア日本語学院において2年間の予備教育 (日本語の授業及び日本語による教科の授業)を行い、日本留学試験で 基準点を超えた者を日本の国立大学(学部)に留学させるプログラム。

注:英語の正式名称は、Special Japanese Preparatory Programme, Centre For Foundation Studies in Science, University of Malaya。ただし、本コースが行われている施設の名称が"Ambang Asuhan Jepun(「日本留学への入り口」の意)"であることから、その頭文字を取った「AAJ」が「マラヤ大学予備教育部日本留学特別コース」と同義のものと して一般に通用しており、本サイトもそれにならう。なお、施設としてのAAJの日本語の正式名称は、日本文化研究館。

(b) 高専留学プログラム
1982年度開始。人事院が選抜した学生に対し、マレーシア工科大学高等専門学校予備教育センター(Preparatory Center for Technical Studies to Japan/ Pusat Persediaan Kajian Teknikal ke Jepun, Universiti Teknologi Malaysia)において2年間の予備教育を行い、文部科学省による試験に合格した者を日本の国立工業高等専門学校の3年次に編入させるプログラム。

(c) 大学院留学プログラム
2000年度開始。対象は政府職員。日本における1年間の予備教育の後、大学院(修士又は博士課程)に留学する。

(d) 日本語教員養成プログラム
1990年度開始。主にレジデンシャル・スクール(全寮制中等学校)の日本語教員を養成するため、3ヶ月間にわたるマレーシアでの日本語研修を経て渡日 し、日本学生支援機 構東京日本語教育センターに1年間通った後、日本の大学に留学して日本語を学ぶ。

(2)研修プログラム

(a)経済連携研 修(小泉・アブドゥラ研修プログラム)
従来の産業技術研修プログラム(日本の民間企業での実務研修)と経営幹部実務研修(マレーシア人公務員の管理職を対象に地方自治体や民間企業などで研修) を改編。マレーシア側の多様な要請に応じた研修を費用分担の方式で実施し、研修員を2006年度から10年間で1,000名受け入れるものとして、日・マレーシア経済連携協定(EPA)の共同声明により設定。研修の分野は 日マEPAでの協力7分野。①農業・林業・漁業・栽培業、②教育・人材育成、③情報通信技術、④科学技術、⑤中小企業、⑥観光、⑦環境。テーマにより各受 入機関で実施。

(b)青年研 修
若手行政官対象。国際協力機構 (JICA)において、行政、教育、農業、社会福祉、経済、保健医療、環境及び情報通信など多岐にわたる分野ごとに、18日間に渡り 研修を実施。

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3.統計

留学プログラム
研修プログラム
 
  大学 高専 大学院

日本語
教員
養成

小計 産業
研修
経営
実務
研修
青年
研修
小計 合計
1982
~94
914 487 - 67 1,468 2,508 151 1,642 4,301 5,769
1995 123 69 - 17 209 79 28 150 257 466
1996 128 71 - 11 210 81 35 150 266 476
1997 145 81 - 10 236 76 42 150 268 504
1998 143 94 - 6 243 68 20 150 238 481
1999 127 84 - - 211 47 42 149 238 449
2000 96 56 19 - 171 62 39 150 251 422
2001 107 48 18 - 173 50 40 92 182 355
2002 147 57 17 - 221 68 39 140 247 468
2003 149 69 16 4 238 74 40 150 264 502
2004 148 - 19 10 177 41 40 117 198 375
2005 172 79 18 10 279 40 34 111 185 464
2006 182 61 18 7 268 93 130 223 494
2007 154 71 23 8 256 72 116 188 430
2008 168 76 11 6 261 83 79 162 423
合計 2,903 1,403 159 156 4,621 3,992 3,476 7,468 12,089