岡山県出身。2003年4月から2006年3月までマラヤ大学予備教育部日本留学特別コース(AAJ)で勤務。2007年 4月から2度目のAAJ勤務。現在、2年日本語科主任。 |
現在AAJで勉強している学生さんも、すでに留学した方も、ほぼ全ての方が漢字の勉強が たいへんだとおっしゃっています。AAJでは漢字は2年間でどのくらい学ぶのでしょう?
1年生で1,000字、2年生で400字、合計1400字習得することが目標となっています。1年生の方が日本語の授業数が多いので、 漢字の習得数も多くなっています。1,400字を2年で学ぶには、相当な努力が必要です。
(ちなみに日本人は、小学校から高校までで常用漢字1945字を習得することになってい ます。AAJの学生が学ぶ1,400字という数は、漢字検定でいうと4級(中学校在学程度、1,322字)より少し多い数となります。つまりAAJの学生 は、日本人がほぼ9年かけて勉強する漢字の数を、2年弱で勉強するということです。)
授業では、漢字の意味をマレー語で説明しつつ、部首など漢字を成り立たせているパーツを認識させ、その組み合わせで新しい漢字を習得し ていけるよう教えます。また学生たちには、寮に帰って予習・復習する時に、とにかく書いて覚えるよう指導しています。習得度は人によってそれぞれです。
AAJの学生さんはどのような学生さんですか?
AAJの学生は、みなたいへん真面目で素直です。学生の対応において困ることはほとんどありません。短い時間の中でいかにして生徒の日 本語能力を伸ばしていくか、そのことで日々試行錯誤を重ねています。
学生のほとんどがマレー系、すなわちイスラム教徒なので、宗教に関することに気をつけています。例えば、「顔が赤くなる」という表現を 使って例文を作る時に、一般的には「お酒を飲んで顔が赤くなる」という例文となりますが、お酒という言葉を使わないで例文を作るといったことがあります。
AAJを卒業した後の学生たちの様子を見ていると、AAJでの学力が日本留学後の成功の可否を必ずしも握っているわけではないようで す。成績があまりよくなくても、学業以外の力を発揮して、日本でうまくやっていける学生も大勢います。AAJの学生は、明るくて陽気な学生が多いので、友 達をたくさん作ってノートを借りるなどして、試験を切り抜ける学生も多いようです。他方、AAJで成績が優秀だった学生が、日本で伸び悩むケースもありま す。ただ、いずれにしてもAAJの学生は、寮生活を経験する中で、人間としての強さも備えつつあるようで、そうした強さが彼らの日本での勉強や生活を支え てくれるものと信じます。
![]() (日本留学試験実施中) |
先生が担当されている2年生は、すでに日本留学試験も終わり、日本への渡航を3月に控え ていますね。
はい。これまで試験対策のための日本語を勉強してきたのですが、現在は生きた日本語に触れる授業を重点的に行っています。最近は『にっぽにあ』を教材にして、授業を行っています。『にっぽにあ』は写真が豊富で美しく、学生にもとても評判です。最新号は秋 葉原を紹介したもの(第46号)でしたが、学生の目が輝き、他の号に比べてダントツの人気で、み な食い入るように読んでいました(笑)。また工学系の学生が多いため、技術に対する関心が高く、鉄道の特集(第43号)も非常に人気が高かったです。
そういえば、前々号(第44号)の『にっぽにあ』ではお酒を特集していましたが、大丈夫でした か?
はい、大丈夫でした。彼ら自身はお酒を飲みませんが、お酒に対する興味はあるようです。「お酒はどういう味がしますか?」とか「日本酒 とワインとどちらが好きですか?」など、質問攻めにあいました。学生たちは、日本人がお酒を好きだということを知っており、それを日本の文化としてそのま ま受け入れています。他人が自分とは異質な文化・習慣を持っていても、それを拒否したり否定したりせず、そのことをそのまま受け入れて他人と関係性を築く ことができる子たちなのです。
先ほど、授業ではマレー人の文化や宗教を考慮して、例えば「酒」という単語を例文に使わないとお話しましたが、その一方で、日本で暮ら せば電車で隣に座った人が酔っ払いということもしばしばあり、そうした日本の一面も伝えています。授業では日本語を教えるだけでなく、日本文化や日本人の 考え方をなるべく紹介できるよう心がけています。
日本でも「ルック・イースト・ポリシー」という言葉はそれなりに知られていますが、その 政策の下で、毎年マレーシアから200人以上が日本に留学していることは、残念ながらあまり知られていないと思います。日本の方々に対して、一言お願いし ます。
日本人がマレーシアについてどれだけ知っているかと、マレーシア人が日本についてどれだけ知っているかを比較すると、圧倒的に後者の方 が質的にも量的にも大きいと思います。AAJの学生も、日本のドラマやアニメ、歌手や俳優などよく知っており、日本にとても強い興味を持っています。そし て、日本への留学のために、毎日ものすごい努力をしています。
これほどまでに日本に興味を持ち、毎日努力をしている学生がいることを、私自身も赴任して初めて知り、驚いた次第です。彼らの日本に対
する強い興味に、こちらも十分に応えなければならないと思っています。またそうした学生たちがいることを、日本の人たちにぜひ知っていただきたいです。日
本で彼らに会ったら、どうぞよろしくお願いします。