海外安全対策情報(平成30年1月~4月)
平成30年5月4日
【1.治安情勢概説】 |
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(1)2017年中のマレーシア治安統計 2017年のマレーシア国内の犯罪認知件数と交通事故認知件数は下記のとおりです。 ア 犯罪統計 犯罪認知件数:99,168件(前年比13,186件減) うち凶悪犯罪:21,366件(前年比 960件減) うち財産犯罪:77,802件(前年比12,226件減) 注:凶悪犯罪とは、殺人・強盗・強姦等。財産犯罪とは、侵入窃盗、車両盗、ひったくり等。 なお、クアラルンプール(KL)市内では、2017年中、ひったくり被害が急増し、12月に は市警察本部長が記者会見を開き、特別捜査班が編成されている。 イ 交通事故統計 事故認知件数:533,875件(前年比12,409件増) 事故死者数: 6,740件(前年比 412件減) 注:2017年中は、邦人被害の死亡・重傷事故事案も発生しており、当地は「超・車社会」であることに注意する必要がある。 (2)最近の動向 ア 2017年中、KL市内ではひったくりが多発し、12月にはKL市警察本部長がひったくり等の「街頭犯罪(Street Crime)」に遭遇しないよう、注意を呼び掛けるとともに、特別捜査班を編成して犯罪抑止に努めています。 【注】街頭犯罪とは、ひったくりやスリ・置引きなど、街頭で日常的に発生する犯罪を総称するものです。 しかし、2018年に入っても、ひったくり被害は続いており、4月中旬には国立モ スクからイスラム美術館へ徒歩で移動中の外国人旅行者(55歳・女性)が、ひったくりに遭い、転倒して頭部を強打し、意識不明の重体となる事件が発生しています。 KL市中心部を管轄する警察署(Dang Wangi警察署)は、KL市内で特にひったくり事件が多発している場所として、クアラルンプール・シティセンター(KLCC)周辺、ブキッ・ビンタン(Bukit Bintang)界隈、パサー・セニ(Pasar Seni)近辺を挙げるとともに、被害者の多くが外国人女性観光客であることを紹介し、女性が一人で歩く際には特に注意を払うよう呼び掛けています。 イ 一方、日常的に自動車を運転する方は、信号待ち・交通渋滞等で一時停車中の自動車にバイクが近付き、追い抜きざまに助手席等の窓ガラスを破壊し、車内のバッグ等を強奪して逃走する「スマッシュ・アンド・グラブ:Smash and Grab」と称する犯罪に注意する必要があります。 この犯罪はKL市内だけでなくマレーシア各地で発生しており、この犯罪を防ぐには、「助手席にバッグや衣服を置かない」、「窓ガラスには防犯フィルムを貼る」などの予防策を講じることをお勧めしています。 ウ 2017年8月以降、マレーシア国内の複数の都市において、制服警察官の姿をした複数の男性が外国人に旅券携行の有無を質問し、携行していない場合は「罰金」と称して金銭を要求する事案が発生しています。 KL市内でも、外国人が制服警察官姿の男性に多額の現金を要求される事案が発生しています。 本事案は、外国人がよく利用するホテルの周辺で発生している模様ですので、ホテル周辺で制服警察官の姿をした者が不自然な動きを見せている場合には、十分注意してください。 エ このほか、飲酒に伴うトラブルで警察官に身柄を拘束される、あるいは最寄りの警察分署に同行を求められて事情聴取を受ける在留邦人の方が散見されます。 マレーシアは、イスラム教を国教としており、国民の7割近くを占めるマレー系国民は、イスラム教を信奉しています。 このため、飲酒後に路上で殊更に大声で歓談したり、アルコールの匂いを漂わせながらマレー系運転手のタクシーに乗車した場合、不測の事態が起こることも懸念されます。 したがいまして、飲酒の際には飲酒後に屋外で大声で談笑しない、予定されている飲酒会合に参加する場合は、終了後の送迎運転手をあらかじめ決めておくなど、ムスリムに配慮した配慮が強く求められます。 (2)テロ情勢 ア マレーシアでは、2018年も警察当局による大規模なテロ取締り活動が随時行われており、3月末にはジョホール州で非ムスリム宗教施設への襲撃を計画していた7人を検挙しました。 現在のところ、マレーシアにおけるテロに関する具体的な脅威情報や注意喚起は発出されていませんが、在留邦人及び旅行者の皆様にあっては、「いつテロが発生してもおかしくない」との危機意識を持ちながら行動することが求められます。 イ マレーシア国家警察は、大規模な摘発とともに国内主要交通機関や大規模商業施設、観光地等において軍との共同パトロールを実施しています。また、空港・税関での保安検査を強化し、あわせて国民にテロへの警戒を呼び掛けています。このため、空港の出入国カウンターでは、しばしば検査強化のため、待ち時間が1~2時間に及ぶことがありますので注意が必要です。 ウ 近年、欧米各国では、観光スポットや多数の人々が往来する地域での車両突入テロ事件や、ナイフ等の刃物による襲撃事件など、銃器・爆発物を使わずに敢行されるテロが増加しています。トラックの突入や刃物による無差別殺傷は、準備コストが安価であることから、「ローンウルフテロリスト(注)」がこれらの手段を好んで実行する傾向にあります。 【注】ローンウルフテロリスト インターネットやソーシャルメディアを通じて過激思想の影響を受け、特定の組織に参加することなく単独でテロ敢行を企図・実行するテロリストのこと。 (3)邦人の皆様へのお願い ア 在留邦人及び邦人旅行者の皆様におかれては、外国では言語、法制度、警察組織や犯罪捜査手続など、あらゆる事柄が日本と異なること、また、万が一犯罪に巻き込まれた場合でも、日本の警察が行うようなきめの細かい事件対応は期待できないことをよく御理解ください。 イ その上で、「犯罪に巻き込まれない」ように注意すること、また、万一犯罪に巻き込まれた場合でも、「身体の安全を第一に行動すること」ができるよう、普段から心の準備と必要な安全対策を講じてください。 ウ あわせて、空港や駅等の交通の要所や、外国人観光客が多数集まる名所・旧跡、大規模商業施設では、外国人観光客を狙った銃乱射事件や爆弾テロ事件が発生したり、被害に遭遇する可能性が十分あることも念頭に置いて行動してください。 エ 上述しましたように、当地はイスラム教徒が多数を占めるムスリム圏となりますので、当地の風俗習慣に注意するとともに、飲酒など当地では必ずしも歓迎されない行動については無用のトラブルを避けるよう、十分配慮して下さい。 (4)外務省海外旅行登録「たびレジ」のご案内 外務省では、海外渡航先の最新の安全情報を提供し、事件事故や災害時等の緊急時には速やかにその旨を受信できる海外旅行登録「たびレジ」への登録を呼び掛けています。2017年5月1日以降、登録に必要な入力項目が簡素化され、「旅行予定」と「旅行者情報」について、それぞれ3項目ずつ入力すれば登録できるようになりました。 本サービスは、海外居住者が別の国に旅行や出張する際にも役に立ちます。また、スマートフォンでも簡単に登録できますので、以下のURLを御確認の上、ぜひ御登録ください。 「たびレジ」→ https://www.ezairyu.mofa.go.jp/tabireg/ |
【2.犯罪事例と手口】 | ||||
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(1)一般的留意事項 スリ・置引き、ひったくり、車上狙い等の窃盗被害は、普段から在留者や旅行者の別を問わず発生しており、注意が必要です。 また、制服警察官と称する者による職務質問名目での金銭要求事案については、昨年8月以降散見されており、例えば出張中の邦人がパハン州クアンタン市内のホテル周辺や、クアラルンプール市内で制服警察官と思料される者から旅券を提示するよう要求され、提示できなかった場合には「罰金」と称して金銭を要求される事案が発生しています。 また、公共場所での喫煙を理由に「罰金」を要求する事案も発生しており、言いがかりを付けられないように法令遵守に努めるとともに、殊更に目立つことのないように周辺に溶け込んだ服装や立ち居振る舞いをする事が求められています。 (2)インターネットを介した各種詐欺 マレーシアでは、銀行口座や携帯電話番号を容易に売買できるため、これらを悪用したインターネットを介する各種詐欺が多数発生しています。 特に、国際交流サイト等を通じて知り合った外国人に対し、マレーシアの銀行口座への送金を依頼して金銭をだまし取る送金詐欺や、インターネットオークションの落札者や入札者を偽装して商品や金銭を騙し取るオークション(取り込み)詐欺は、日本のみならず欧米各国でも多数の被害者が発生しています。 これらの犯罪は、ナイジェリア人等の外国人集団や犯罪組織によって敢行されているケースが多く、マレーシア国内では、これらを「マカオ詐欺(Macau Scam)」、「アフリカ詐欺(African Scam)」と称して警戒を呼び掛けています。 当館にも、「相手方の連絡先や口座番号が分かっているので、マレーシアの警察に連絡して逮捕してほしい」とか、「騙し取られた金銭(商品)を取り返してほしい」といった相談が多数寄せられますが、当地では法令により、被害届は被害者本人が警察署に出頭して届け出ることが義務化されているため、在外公館が被害届を代行して届け出ることはできません。 皆様にあっては、電子メールやソーシャルネットワークサービスなど、直接相手方を確認することなく連絡を取り合う関係では、常に「相手の素性は不確かである」というリスクの下に交流していることを念頭に置き、むやみに住所や電話番号等の個人情報を開示しないなどの自己防衛策を図ることが大切です。 なお、国際的な詐欺事案については、外務省海外安全ホームページに、4月28日付で「国際的詐欺事件に対する注意喚起」と題する注意喚起を行っておりますので、ご参照下さい。 https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcwideareaspecificinfo_2018C065.html 以下に、当館でよく取り扱う詐欺事案について紹介します。
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【3.テロ・爆弾事件発生状況】 |
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【テロ情勢】 |
マレーシアでは、2016年6月28日、KL市郊外にてISIL関係者によるテロ事件が発生し、8人が重軽傷を負う被害が発生しましたが、その後、死傷者を伴うテロ事件は発生していません。 しかし、マレーシアには欧米系資本のホテルや飲食店が多数進出しているほか、特にKL市内にはショッピングモールやナイトクラブ等、欧米など世界各国からの観光客が多数訪れる施設が存在します。このため、欧米人観光客を狙ったテロ事件が発生した場合には、在留邦人や邦人旅行者も何らかの被害に巻き込まれる可能性は否定できないといえます。 |
【武装勢力の侵入事案(東マレーシア・サバ州)】 |
在コタキナバル領事事務所管轄のサバ州南東部ラハ・ダトゥ地区周辺では、2013年2月に数百人規模の武装勢力「スールー王国軍」がフィリピン側から侵入し、鎮圧に数か月を要したという事案が発生しました。翌2014年6月には、当該勢力の関係者が複数逮捕され、2017年6月、9人に対して死刑判決が言い渡されました。 2018年4月末現在、当該地区に対しては、海外安全情報(旧渡航情報)における危険情報のカテゴリー(4段階)のうち、レベル4(退避勧告)に準じる「レベル3:渡航は止めてください(渡航中止勧告)」を継続発出中です。 |
【4.誘拐・脅迫事件等発生状況】 |
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【誘拐事件~サバ州東海岸部における誘拐事件の発生動向】 |
在コタキナバル領事事務所管轄のサバ州東海岸部では、かねてから身代金目的の拉致・誘拐事件が頻発しており、2014年4月以降、7件の誘拐事件が発生し ています。なお、2016年4月、サバ州東海岸のセンポルナ沖リギタン島にて誘拐されたマレーシア人船員4人については、無事解放されています。 ・2014年4月 センポルナ近海(シンガマタ島)外国人旅行者1名、フィリピン人従業員1名 ・2014年5月 ラハ・ダトゥ近海(バイキ島)養魚場マネージャー1名 ・2014年6月 クナ近郊(サバン村沿岸)養魚場オーナー1名、フィリピン人従業員1名 ・2014年7月 センポルナ近海(マブール島)海上警察官2名(内1名射殺) ・2015年5月 サンダカン海岸 レストランオーナー1名、客1名 ・2016年4月 センポルナ近海(リギタン島)船員4人 ・2016年7月 ラハ・ダトゥ沖合 船員5人 各事件には、フィリピン南部に拠点を置く武装集団が関与しているとされ、リゾート施設や養魚場等の海に面した場所で被害者を拉致し、高速ボートでフィリピン南部の島へ連れ去っているといわれています。 本事案を巡っては、「犯人の一部が逮捕された」といった報道もされていますが、犯行グループを壊滅するには至っていません。 これら一連の誘拐事件を受け、サバ州東海域では、2014年7月から夜間外出禁止令が発出されており、禁止時間帯に許可なく同海域を通行する船舶は警察により逮捕されたり、罰金又は勾留刑が科されています。 上述のとおり当該地区には、2018年4月末現在、海外安全情報の危険情報カテゴリー3「渡航は止めてください(渡航中止勧告)」を継続発出中です。 なお、2016年11月22日に、サバ州東部海岸に面するフィリピン南部スールー海域について、広域情報「フィリピン南部スールー海域における商業船舶に対する襲撃事件に伴う注意喚起」 URL→( http://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcwideareaspecificinfo_2016C313.html ) を発出しておりますので、これらの海域には絶対に立ち入らないようにしてください。 |
【脅迫事件】 |
地元紙の報道等によりますと、ビジネス絡みのトラブルから脅迫事件に発展する事案がしばしば発生しているということです。 脅迫事件の場合、いわゆるギャングやマフィアが関係する事案が少なくないことから、「他人から妬みを買わない」、「事件に巻きこまれない」ことを念頭に、無用のトラブルを避けることが賢明です。 |
【5. 対日感情】 |
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全体的に良好ですが、第二次世界大戦における各種戦役等の記念日、あるいは、いわゆる南京事件や従軍慰安婦をめぐる報道が行われた際には、これらの記念日・報道等を捉えて各種示威活動が展開される可能性があることを念頭に置く必要があります。 |
【6. 日本企業の安全に関する諸問題】 |
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邦人及び現地社員に対する犯罪被害防止対策の実施とあわせて、他国企業で警備員や社内の者が手引きしたと思われる窃盗事案が発生していることを踏まえ、社員及び警備員の採用人事や勤務管理等には、特に注意を払う必要があります。 |
以上